――その時だった。
試合の最中、デューイが鋭く踏み込み、ミリアの護衛の隙を突いた。
木剣の腹で相手の剣を叩きつけるように打ち込むと――バキィンッ!!
護衛の木剣が真っ二つに折れた。
そして、折れた剣の破片が――
まっすぐ、ミリアの方へ飛んできた。シュンッ! バキッ!! シューーーン!
――やばい! 間に合わない!?
女性護衛が反応して動こうとしたが、わずかに遅い。
俺の隣に座るミリアに、折れた木剣の破片が一直線に向かってくる。俺は咄嗟に、まだ手にしていた試合用の木剣を構えた。
――いや、正確には“構えるフリ”をして、バリアを発動。透明な防壁を斜めに展開し、飛来する破片を――
ガンッ!
空中で叩き落とした。
「危ないっ!」
俺が声を上げた直後、ミリアがびくっと肩を震わせた。「きゃぁーっ! 危ないですわっ! もぉ……!」
ミリアは驚きと怒りが入り混じった表情で俺を見つめたが、すぐに目を潤ませて微笑んだ。「ユウヤ様、ありがとうございます……また、わたくしの命の恩人ですわ♡」
その言葉に、俺は苦笑しながら木剣を下ろした。
――いや、ほんとに危なかった。
その瞬間、王族席の後方から慌ただしい足音が響いた。
「ミリア様! ご無事ですか!」
「ミリア様ーっ!」
国王とお偉い様方が、青ざめた顔で駆け寄ってくる。
ミリアはそんな彼らに、にこりと微笑んで答えた。
「大丈夫ですわっ♪ ユウヤ様に守っていただきましたの♡」
俺は立ち上がり、軽く頭を下げながら言った。
「事故ですし、気にしなくても大丈夫ですよ。
十分に護衛もつけていただいてますし」――まあ、俺がいなかったらどうなってたか分からないけどね。
でも、騒ぎを大きくしたくないし…「もう少し訓練が必要ですわね」 ミリアは冷静に、しかし厳しすぎない口調で言った。「は、はい。戻り次第、さっそく訓練をしたいと思います」 彼は気を引き締め直し、ミリアの後方に控えて護衛任務に戻った。 ――うわ、落ち込んでるのに……でも、仕方ないか。 自分の護衛が負けたってことは、ミリアの安全に関わる問題だし。 弱い護衛だと思われたら、狙われる可能性もある。 ……うーん。護衛には悪いことしたかな。 でも俺だって、守ってほしかったぞ!? ミリアの護衛って、俺の護衛でもあるんじゃないのか?「ミリアの護衛って……俺も護ってくれるの?」 俺が尋ねると、ミリアは当然のように微笑んだ。「当然ですわ。だって、ユウヤ様はわたくしの婚約者ですもの♡」 ――そっか。そう言ってもらえると、ちょっと安心する。 でも――「……俺、薬屋なんだけどなぁ」 ぼそっとつぶやいた声は、ミリアには届いていないようだった。「ミリアの護衛って……俺も護ってくれるの?」 俺が尋ねると、ミリアは当然のように微笑んだ。「当然ですわ。わたくしの婚約者ですもの♡」「そっか……良かった」 ――ちょっと安心。やっぱり俺も対象に入ってるんだな。 ……と思ったのも束の間。「ですが……ユウヤ様に護衛は必要ないと思いますけれど?」 ミリアは首をかしげながら、不思議そうに言った。「え? あるって。普通にあるから」「でしたら――わたくしがお護りいたしますわっ♪」「え? ミリアが?」「はいっ!」 ミリアは胸を張って、誇らしげに言い切った。「…&hellip
――その時だった。試合の最中、デューイが鋭く踏み込み、ミリアの護衛の隙を突いた。 木剣の腹で相手の剣を叩きつけるように打ち込むと――バキィンッ!!護衛の木剣が真っ二つに折れた。そして、折れた剣の破片が―― まっすぐ、ミリアの方へ飛んできた。シュンッ! バキッ!! シューーーン! ――やばい! 間に合わない!?女性護衛が反応して動こうとしたが、わずかに遅い。 俺の隣に座るミリアに、折れた木剣の破片が一直線に向かってくる。俺は咄嗟に、まだ手にしていた試合用の木剣を構えた。 ――いや、正確には“構えるフリ”をして、バリアを発動。透明な防壁を斜めに展開し、飛来する破片を――ガンッ!空中で叩き落とした。「危ないっ!」俺が声を上げた直後、ミリアがびくっと肩を震わせた。「きゃぁーっ! 危ないですわっ! もぉ……!」ミリアは驚きと怒りが入り混じった表情で俺を見つめたが、すぐに目を潤ませて微笑んだ。「ユウヤ様、ありがとうございます……また、わたくしの命の恩人ですわ♡」その言葉に、俺は苦笑しながら木剣を下ろした。 ――いや、ほんとに危なかった。その瞬間、王族席の後方から慌ただしい足音が響いた。「ミリア様! ご無事ですか!」「ミリア様ーっ!」国王とお偉い様方が、青ざめた顔で駆け寄ってくる。ミリアはそんな彼らに、にこりと微笑んで答えた。「大丈夫ですわっ♪ ユウヤ様に守っていただきましたの♡」俺は立ち上がり、軽く頭を下げながら言った。「事故ですし、気にしなくても大丈夫ですよ。 十分に護衛もつけていただいてますし」 ――まあ、俺がいなかったらどうなってたか分からないけどね。 でも、騒ぎを大きくしたくないし…
――おお、始まるのか。 これはちょっと楽しみかも。 俺は闘技台から降り、ミリアと並んで観客席へ向かった。 ミリアは俺の腕にぴったりとくっつきながら、にこにこと笑っている。「ユウヤ様と並んで観戦……まさにデートですわね♡」「……うん。まぁ、そういうことにしとこうか」 ――剣の試合観戦でデートって、なんか不思議だけど…… ミリアが楽しそうなら、それでいいか。 さっき俺を裏切って、護衛任務を回避した男性護衛―― その彼を、ついに戦わせることに成功した。 ……というか、ミリアからの“直命”を受けたら、断れるわけがない。 彼は観念したように静かに頷き、すぐに戦闘モードに入っていた。 一方のデューイはというと、俺との試合は一瞬で終わったし、 治癒薬でケガも完全に治っている。体力的にも問題なさそうだ。 そして、二人が準備を終え―― ――って、え? ちょっと待て。 なんで防具つけてるんだよ!? 胸当て、腕当て、脚部ガードまで、しっかり装備してる。 しかも、ちゃんとした試合用のやつだ。 俺のときは……木剣一本だったよな? 防具ゼロだったよな?「ねぇ……なんで防具つけてるの?」 俺は隣のミリアに、思わず尋ねた。「知りませんわ……」 ミリアは小首をかしげて、無邪気に微笑んだ。「俺のときは無かったんだけど……」「そうですわよね……何ででしょう?」 ――いやいやいや、マジで!? 俺のときは、王国最強の大隊長相手に、木剣一本で丸腰だったんだぞ!? ミリアはさらに、こてりと首を傾けて、にっこりと笑った。 ――うん。絶対わかっててやってるよね、それ。
――え? やっぱりこの人、王国最強だったのか……。 どうりで、ただの“強い人”って感じじゃなかったわけだ。 ミリアと同じような、言葉にできない“圧”というか、オーラというか……威圧感がある。「俺が勝てないわけだな。あのモンスターの群れを単独で倒すとは……」 デューイは苦笑しながら肩をすくめた。 そして、ちらりとミリアを見て――「その強さに、可愛い子を連れてるとは……羨ましいね~。 なぁ、嬢ちゃんのお友達を、今度任務で護衛に行ったときに紹介してくれよ。な?頼むよ」 ――その瞬間。 王様とお偉い様方が、同時に顔を引きつらせた。「なっ……!」 軍服を着た一人が、顔面蒼白になってデューイの肩を掴んだ。「バカ者っ!! 不敬にも程があるぞ!!」 その怒声が、闘技場に響き渡る。「し、知らなかったとはいえ……申し訳ございませんでした……っ!」 男は深々と頭を下げ、額を地面に擦りつける勢いで謝罪した。「……え? な、なんでそんなに怒って……?」 デューイが戸惑いながら視線を巡らせると、王様が静かに口を開いた。「デューイよ……その方は、――アイラシス帝国第一皇女、ミリア・アイラシス殿下である」「……は?」 デューイの顔から血の気が引いていくのが、目に見えて分かった。「お、お嬢ちゃんって……皇女殿下……!?」 彼はその場に膝をつき、今度こそ本気で頭を下げた。「し、失礼を……本当に、知らなかったんです…&hellip
俺は木剣を抜くように動かし―― そして、すぐに収める動作をした。 その瞬間、目に見えない“斬撃”が走る。 バリアを斬り飛ばすように放ち、相手に叩きつける。 男の体が、衝撃とともに吹き飛んだ。 ――一撃。 今度は、間を置かずに歓声が爆発した。「きゃ~っ♡ ユウヤ様~っ! また勝っちゃいましたねっ♡」 ミリアが両手を振りながら、王族席でぴょんぴょん跳ねている。 頬を真っ赤に染めて、目をキラキラと輝かせながら、まるで恋する乙女そのもの。 ――うん、君が一番うるさいよ。「……もう終わりですよね?」 俺は木剣を肩に担ぎながら、相手に声をかけた。「ああ。完敗だ……降参だ。剣が全く見えなかった……。 流石、あのモンスターを倒しただけのことはあるな……」 男は潔く膝をつき、深く頭を下げた。 ――ようやく、終わった。 俺は心の底から、そう思った。 だが……。吹き飛ばされた男は、驚くほど早く起き上がってきた。 ――え、もう立つの!? ていうか、近い近い! しかも、額から血が流れていて、顔が真っ赤に染まっている。 そのままズカズカと俺に近づいてくる。 ――ちょ、待って。怖いって。 さっきより迫力あるんだけど!? お願いだから近寄らないで!「ちょっと待って、これ使って」 俺は慌ててポーチから治癒薬を取り出し、男に手渡した。「飲めばすぐ治るから。……たぶん」 男は一瞬きょとんとしたが、すぐに豪快に瓶を開けて一気に飲み干した。 ごくっ、ごくっ、ごくっ――「おおぉっ!? これは……すごい!!」 男の声が闘技場に響き渡る。「美味いし、出血も止まったし、痛みも
今は空席だけど、俺たちじゃなくて他の冒険者だったら、たぶん王様も来てたんじゃないか? これ、どう見ても“冒険者の実力を見るための試合”だよな。 若い兵士が勝手に王城の闘技場を使えるわけがない。 普通なら練習場くらいが関の山だろ。 ――つまり、これは最初から仕組まれてたってことか。 そして、王族席には――「……おいおい」 ミリアが、当然のような顔でど真ん中に座っていた。 背筋をぴんと伸ばし、優雅に微笑みながら、俺に手を振っている。 ――うん。君だけは、まったくブレないな。「剣は? 木剣にする?」 兵士が訓練用の剣と木剣を両手に持って差し出してきた。「何でもいいぞ?」 俺がそう言うと、兵士は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに木剣を差し出してきた。「じゃあ、木剣でお願い」 俺は木剣を受け取り、軽く振って感触を確かめる。 ――うん、悪くない。軽すぎず、重すぎず。 そして、静かに構えた。 観客席がざわつく。 その中で、ミリアだけが嬉しそうに手を組み、目を輝かせていた。「さっさと終わらせて、帰って休みたい」 俺は木剣を手に、ゆっくりと腰を落とした。 左足を半歩引き、木剣を鞘に見立てて、静かに構える。 ――居合いの構え。 観客席がざわつく。だが、対面の兵士はその意味を理解していないようだった。「こちらは、いつでも良いぞ!」 兵士は意気揚々と叫び、剣を振りかざして構える。 その顔には、勝利への自信がにじんでいた。 ――知らないんだな、この構えの意味を。 俺は静かに息を吸い、目を細める。 兵士が踏み込んでくるのを、ただ待つ。 そして―― 兵士が剣を振り下ろそうとした、その瞬間。 俺の体が、風のように動いた。 木剣が一閃。 まるで空気そのものを断ち切るような鋭い音が、闘技場に響いた。 次の瞬間、兵士の剣が弾かれ、彼の体ごと吹き飛んだ